日本人を雇用する場合であれば、労働基準法の他、労働保険や社会保険について主に注意すればよいのですが、外国人を雇用する場合には、これらにプラスして、入管法違反にならないかどうかについても注意する必要があります。
入管法違反となれば、雇用した企業側にも厳しいペナルティが課されますので、事前にしっかりと準備しておくことが必要となります。
1. 就労ビザの基本的な注意ポイント
(1)現在持っているビザで定められた範囲外の仕事はNG!
雇用しようとする外国人が現在持っているビザがどのようなものか、まずチェック。
そのビザによって、日本でどのような職種の仕事ができるかは異なります。
「就労ビザを持っているから大丈夫!」と簡単に考えないで下さい。
ビザの種類ごとに、できる仕事の職種も異なります。
ビザで定められた職種の範囲外の行為をすると入管法違反になります。
(2)ビザの有効期限は会社側でしっかりと管理!
ビザが切れてオーバーステイになって困るのは、外国人自身ですから、大抵の人は、
自分でしっかりと管理しています。
ですが、忙しさのあまり、うっかりすることもありますので、
やはり、ビザの有効期限については、会社側でもしっかりと管理し、
オーバーステイにならないようにすることが必要です。
2.企業規模による分類
企業が外国人を雇用して就労ビザを申請する場合、
申請時に必要な添付書類については、企業規模により異なります。
入国管理局では、次のような4つのカテゴリーに企業を分類しています。
【カテゴリー1】
➀日本の証券取引所に上場している企業
➁保険業を営む相互会社
➂日本又は外国の国・地方公共団体
➃独立行政法人
➄特殊法人・認可法人
➅日本の国・地方公共団体の公益法人
➆法人税法別表第1に掲げる公共法人
【カテゴリー2】
前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表中、給与所得の源泉徴収票合計表の源泉徴収税額が1,500万円以上ある団体・個人
【カテゴリー3】
前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表が提出された団体・個人(カテゴリー2に該当するものを除く)
【カテゴリー4】
上記のいずれにも該当しない団体・個人
これらのカテゴリーを簡単に説明すると、
カテゴリー1が上場会社
カテゴリー2が未上場の大規模会社
カテゴリー3が設立2年目以降の中堅・中小零細企業
カテゴリー4が設立後間もない新設会社
カテゴリー1,2の場合、
企業としての信頼性が高いため添付資料はかなり簡略化されますが
カテゴリー3、4の場合には、添付資料もかなり多くなります。
ほとんどの企業は、カテゴリー3、4になるかと思いますが、
まず、自社がどのカテゴリーに属するのかを調べる必要があります。
3.企業側が用意する書類
外国人を雇用して就労ビザを申請する場合には、
外国人本人が用意する書類の他に、企業側が用意する書類もあります。
入国管理局のホームページなどに「提出書類一覧」というリストがありますが、
これは、「申請の受付に最低限必要な書類」ということであって、
「これらの書類があれば必ず許可しますよということではない」ので注意して下さい。
では、入国管理局は、企業のどのようなところを審査しているのでしょうか。
ポイントは、次のような点になります。
➀企業自体の事業内容
どのような事業を行っている企業か。
この審査のために必要なものは、
「登記事項証明書」「会社案内」「パンフレット」「ホームページ」など。
登記事項証明書だけでは、入国管理局としても、企業の事業内容の実体が把握しきれません。ですので、会社案内、パンフレット、ホームページなどが無いのであれば、
入国管理局に説明するために、別途、会社案内を作成する必要があります。
➁雇用される外国人の職務内容
どのような職務内容で外国人を雇用するのか。
これについては、「雇用契約書」の他、「採用理由書」で詳しく説明して下さい。
採用理由書には、どういった事業部門に配属し、どのような職務に従事させるのか、
その職務に必要な専門知識はどのようなものか、日本語能力はどの程度あるのか、
海外との接点はあるのかなどを説明して下さい。
➂企業の財務状況
企業の財務状況がどのようなものか。
これを説明するために、「直近年度の決算報告書(貸借対照表、損益計算書)」
「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表(※)」が必要になります。
赤字が続いている場合は、黒字化するまでの計画を説明した「事業計画書」が
ある方が良いでしょう。
これがないと、企業としての安定性に欠けるということで不許可になる可能性があります。
※「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」とは、1月1日から12月31日までの間に、「給与等」もしくは、「報酬・料金等」を支払った会社が、その明細を税務署や市区町村に通知するために作成しなければならない書類です。毎年1月31日までに前年分を税務署に提出します。
就労ビザの申請にあたり、「前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」を添付することが必要になります。この書類によって、おおよその社員の数や企業の規模が判別できるため、これを基に、当該企業が前述のカテゴリーに分類されます。
➃外国人の給与水準
外国人の給与水準が、当該企業に勤める日本人と同じであることが必要となります。
ですので、当該企業に勤める日本人が他の企業と比べて低めの給与であれば、
雇用する外国人の給与水準が低めでも大丈夫です。
4.雇用している外国人についての各種手続
企業が、外国人を雇用したり、解雇したりした場合などには、その外国人に関する情報を14日以内に入国管理局へ提出する必要があります。
そのためにも、企業側としては、雇用している外国人の在留カードに記載されている情報を管理しておくことが必要となります。
雇用している外国人の在留カードは、コピーして管理しておきましょう。
では、主な手続きについて、簡単に説明します。
(1)外国人雇用状況届出書の届出義務
「外国人雇用状況届出書」は、ハローワークを通じて厚生労働大臣に届け出るものになり、この届出は、すべての事業主に義務づけられています。
基本的には、全ての外国人労働者について届出対象となります
(例外:「特別永住者」「外交」「公用」)。
(2)外国人を雇用した場合の外国人雇用状況届出書の届出方法
〇外国人社員が雇用保険の被保険者となる場合
→雇用保険被保険者資格取得届の「18.備考欄」に必要事項を記入することにより、外国人雇用状況の届出とすることができます。
〇外国人社員が雇用保険に加入しない場合
→個別に外国人雇用状況報告書を記入し、ハローワークへ提出します。
(3)外国人が退職した場合の外国人雇用状況報告書の届出方法
〇外国人社員が雇用保険の被保険者であった場合
→雇用保険被保険者資格喪失届をすることによって、外国人雇用状況報告書の届出に代えることができます。
〇外国人社員が雇用保険に加入していなかった場合
→個別に外国人雇用状況報告書を記入し、ハローワークへ提出します。
また、「中長期在留者の受け入れに関する届出」を入国管理局に対し14日以内に行います。
5.終わりに
企業が外国人を雇用する場合に注意するポイントについて、ざっくりと説明しました。
入管への手続きをきっちりとしていないと、企業に対する入管の信用が落ちてしまい、
今度、別の外国人の就労ビザを申請したときの審査が厳しくなってしまう可能性もありますので、企業側でも細心の注意を払っていただきたいと思います。
申請取次行政書士(immigration lawyer)
若林かずみ(wakabayashi kazumi)
和(yawaragi)行政書士事務所
http://kazumi-wakabayashi-nara.com/
tel;0745-27-7711 fax:0745-32-7869