日本人と結婚した外国人配偶者の方で日本滞在が長くなっている方や、日本で就労している外国人で日本での滞在が長くなっており、今後も、日本に住み続けたいと思っているような方であれば、「帰化」や「永住権」ということが頭をよぎるのではないでしょうか。
今回の記事では、「帰化」と「永住権」の違いについて、簡単に説明いたします。
1.定義
「永住権」とは、外国籍のままで、日本に住み続けることのできる権利です。
「帰化」とは、外国籍の人が日本国籍を取得することです(法律上日本人になる)。
2.それぞれの効果の違い
(1)永住権を取得するとどうなるか?
〇母国の国籍を失うことなく、日本に安定して滞在しつづけることができる
〇永住権は無期限の在留資格のため、在留資格更新の手続きが不要になります。
〇在留活動に制限がなくなります。
(法律に違反しない限り、一般の就労ビザが許可されないような単純労働に就くこともできます。)
〇失業や離婚により在留資格が失われるということがありません。
〇配偶者や子供が永住申請をする場合、審査要件の一部が緩和されます。
〇住宅ローンが組みやすくなります。
(2)帰化するとどうなるか?
〇法律上は日本人となるため、在留資格が不要。在留資格更新の手続きが不要となります。
〇日本のパスポートを取得できます。
海外旅行や海外出張に行きやすくなります。
〇公務員になることができます。
〇選挙権が発生します。
〇被選挙権が発生します(選挙に立候補できるということです)。
〇母国の国籍を喪失することになります(日本は二重国籍を認めません)。
今後、母国に帰る際には、母国の在留資格が必要ということになります。
3.法律上の要件の違い
イメージとして、
帰化よりも永住権取得の方が申請のハードルが高いということです。
これを踏まえた上で、以下の説明を読んでみて下さい。
(1)永住権の要件
永住権取得についての判断は、法務大臣の自由裁量によることから、明確な基準は存在していません。ただ、法務省は、次のような「永住許可に関するガイドライン」を公表しています(平成29年4月26日改訂)http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukan50.html
Ⅰ)法律上の要件
(ⅰ)素行が善良であること(素行要件)
法律を遵守し日常生活においても住民として社会的に非難されることのない生活を営んでいること。
素行要件で審査対象となるのは、税金、年金、健康保険、犯罪歴です。
税金は、今までの税金を全て支払っているかどうかが重要なポイント。
住民税などに未払いがある場合には、申請前に必ず全部支払いを済ませましょう。
年金は、勤務先の厚生年金に加入しているのであれば、特に問題になりませんが、
国民年金の支払いをする必要があります。
今まで国民年金の支払いをしていなかった場合、永住権取得に向けて、不利な材料となります。
申請前に最低でも1年分は国民年金の支払いをすませましょう。
その後も、毎月の支払の度に入管への提出が必要となります。
健康保険も、勤務先の健康保険に加入しているのであれば、特に問題になりませんが、
国民健康保険に加入している場合、保険料の「滞納」がある場合には、許可がでません。
後から支払うことでリカバリーができませんので、注意が必要です。
犯罪歴ですが、例えば、軽い交通違反の場合、3回程度であれば、
これをもって申請が不許可となることはないかと思われます。
(ⅱ)独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること(生計要件)
日常生活において公共の負担にならず,その有する資産又は技能等から見て将来において安定した生活が見込まれること。
生計要件では、安定した収入があるかどうかがポイントとなります。
貯金の多い少ないではなく、年収がいくらあるかが重要です。
年収300万円以上というのが1つの目安になります。
これは、世帯収入でも構いません。
(ⅲ)その者の永住が日本国の利益に合すると認められること(居住歴など)
ア 原則として引き続き10年以上日本に在留していること。ただし,この期間のうち,就労資格又は居住資格をもって引き続き5年以上在留していることを要する。
イ 罰金刑や懲役刑などを受けていないこと。納税義務等公的義務を履行していること。
ウ 現に有している在留資格について,最長の在留期間をもって在留していること。
エ 公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないこと。
Ⅱ)原則10年在留に関する特例
永住権取得のためには、原則として10年以上の日本在留年数が必要となります。
ただ、特例として、10年以上日本に在留していなくても永住権が認められる場合がありますので、そのうちのいくつかを紹介いたします。
(ⅰ)日本人,永住者及び特別永住者の配偶者の場合,実体を伴った婚姻生活が3年以上継続し,かつ,引き続き1年以上日本に在留していること。その実子等の場合は1年以上日本に継続して在留していること
(ⅱ)「定住者」(難民認定を受けた者を含みます)の在留資格で5年以上継続して日本に在留していること
(ⅲ)外交,社会,経済,文化等の分野において日本への貢献があると認められる者で,5年以上日本に在留していること
(ⅳ)高度専門職省令に規定するポイント計算を行った場合に70点以上を有している者であって,次のいずれかに該当するもの
ア 「高度人材外国人」として3年以上継続して日本に在留していること。
イ 3年以上継続して日本に在留している者で,永住許可申請日から3年前の時点を基準として高度専門職省令に規定するポイント計算を行った場合に70点以上の点数を有していたことが認められること。
(ⅴ)高度専門職省令に規定するポイント計算を行った場合に80点以上を有している者であって,次のいずれかに該当するもの
ア 「高度人材外国人」として1年以上継続して日本に在留していること。
イ 1年以上継続して日本に在留している者で,永住許可申請日から1年前の時点を基準として高度専門職省令に規定するポイント計算を行った場合に80点以上の点数を有していたことが認められること。
※「高度専門職ポイント制度」など、永住権の詳しい要件については、別の記事において説明いたします。
(2)帰化の要件
(Ⅰ)帰化の種類
帰化には、「普通帰化」「簡易帰化」「大帰化」の3種類があり、それぞれに要件が異なります。
ⅰ)簡易帰化とは、在日韓国人・在日朝鮮人(特別永住者)の人や、日本人と結婚した外国人などが該当します。
ⅱ)大帰化とは、「日本に対して特別に功労実績のある外国人に対して許可される」ものですが、これまで許可された前例がありません。
ⅲ)普通帰化とは、上記2つ以外の、一般的な外国人が該当することになります。
では、普通帰化の要件について、以下において簡単に説明します。
(Ⅱ)普通帰化の要件
(ⅰ)素行要件
素行要件で審査対象となるのは、税金、年金、健康保険、犯罪歴です。
住民税などに未払いがある場合には、申請前に必ず全部支払いを済ませましょう。
住民税については、配偶者の分も納税証明書が必要となります。
また、配偶者がアルバイトをして一定の収入を超えており、扶養に入れることができないにもかかわらず、扶養に入れている場合には、修正申告が必要となります。
法人経営者は法人税を、個人事業主の場合は個人事業としての税金を納めていることも必要となります。
年金については、2017年7月の法改正により、年金を支払っているかどうかもポイントとなりました。
勤務先で厚生年金を天引きされていないような場合には、国民年金を支払う必要があります。今まで支払っていなかったのであれば、ひとまず、直近1年分を支払いましょう。
犯罪歴ですが、交通違反については、基本的に過去5年間の違反経歴を審査されます。
過去5年間で、軽微な違反が5回以内であれば、問題はないと思われます。
(ⅱ)生計要件
預金の多い少ないよりも、安定した職業に就いて、毎月安定した収入があることがポイントとなります。
会社の給料が最低月18万円あれば問題ありません。
借金については、返済を滞りなくしているのであれば、問題ありません。
自己破産している場合、7年経過していれば、問題ありません。
(ⅲ)住居要件
引き続き5年以上日本に住所を有すること
(※この要件に関する詳しい説明は、別の記事に譲ります)
(ⅳ)能力要件
20歳以上であること
ただし、未成年の子が両親とともに帰化申請する場合には、20歳未満でも可。
(ⅴ)喪失要件
日本に帰化した場合に、母国の国籍を失うことができること。あるいは、母国の国籍を離脱できること。
日本では二重国籍を認めていないため、このような要件が必要となります。
兵役義務を定めている場合、兵役を終わらないと国籍を離脱できないような場合もあります。
(ⅵ)思想要件
日本国を破壊するような危険思想を有していないこと
(ⅶ)日本語能力要件
日本語能力試験3級程度で問題ありません。
日本語テストについては、必ずしも全ての人に課されるわけではありません。
申請などの面接をした審査官に、日本語能力が足りないかもしれないと思われた場合にテストされるようです。
(3)要件の違いのポイント
(ⅰ)素行要件での違いのポイント
帰化の場合、国民健康保険や国民年金を今まで支払っていなかったとしても、申請までに支払うことで要件を満たすことができます。
他方、永住権取得の場合には、納期限を守っている必要があるため、申請までに未払いだった分を支払うことによるリカバリーが効きません。ですので、1年間納期限を守って支払いをした上で、その後、申請するということになります。
(ⅱ)生計要件での違いのポイント
帰化の場合、特に年収要件が定められているわけではありません。
他方、永住権取得の場合には、基本的には年収300万円以上あることが必要となってきます。
4.終わりに
今回のコラムでは、帰化と永住権取得の違いについて、ざっくりと説明いたしました。
個々の要件などについては、また、別のコラムで詳しく説明いたします。
和(やわらぎ)行政書士事務所
特定行政書士・申請取次行政書士・AFP・法務博士
若林 かずみ